「景P-8」 © Susumu Ohira

「景P-8」 © Susumu Ohira

 

大平奨
円が織りなす内なる風景

会期:2014年7月12日(土)~27日(日)
会場:アンスティチュ・フランセ東京 ホール、カフェ、ギャラリー(2F)

日本、フランス、韓国で活動を行う大平奨の作品には2008年以降、ふたつのシリーズがあります。人物の顔を描いた作品群と身近なものをモチーフにした作品群です。この個展では、意識的にぼかされた被写体に、いくつもの円がほどこされた、幻想的なこのふたつのシリーズを紹介します。

 

大平奨展『円が織りなす内なる風景』大平奨展『円が織りなす内なる風景』
大平奨展『円が織りなす内なる風景』大平奨展『円が織りなす内なる風景』
大平奨展『円が織りなす内なる風景』大平奨展『円が織りなす内なる風景』
大平奨展『円が織りなす内なる風景』大平奨展『円が織りなす内なる風景』

 

108の煩悩の顔と世界の「景」 – 大平奨の円が作る「人間と宇宙の内面風景」
ユ・ヒョンジュ (美術評論家)

夢で見たようにかすんでいる顔、巨大に拡大されたその顔の上に揺れ動く小さな円環たち。これは、大平奨が、近年見せていた「景」のイメージである。作家は十年間描いてきた円を、2008年からは顔と背景の上にも使い始めており、そのすべては友人や知人たちの顔をモデルにしたものである。カメラレンズにより捕捉され記憶の資料として保管され、キャンバスに絵の具で運ばれたそのイメージは、今は巨大な風景に変わっている。彼または彼女の肖像画が、まるで思い出の一瞬を呼び出そうとする呪術のように強力なイメージの魔力を発散する中で、顔と画面全体に放射され揺れ動く小さな円環は、興味深いことに時間の経過や不確実な過去のトポロジーを暗示する。それはすぐに分節され機械化された抽象的時間ではなく、存在を感じるように刺激するべルクソンの「持続」的時間を呼び起こす「円」である。

辞書に出ている「景」の意味は何だろうか。「光、日光、太陽、明るさ、白色のもの、様子、形、風景、影、映る、あるいは反映する」と解釈される「景」は、大平の作品でPとNと名前付けられた二つの風景に分けられる。「景-P」は、作家が元々108個の人物像を表象しようとしたものであるが、これは仏教の108煩悩の数と一致し、この肖像画シリーズの最後は作家自身の顔になる。「景- N」は、それとは全く異なる風景で、日常の姿を捕捉したり、自然のモチーフから想像したイメージを示したりする。Pで象徴される大平の「景」の意味は作家が言及したようにpaysage, pensée, physionomie, portraitなどであり、Nで象徴されるそれはnaissance, nature, néant, notion などである。このように互いに関連性がないように見える「景」であるが、この二つが異なる風景には見えない。大平にとってPの風景は、Nの大宇宙の原理といった風景の中で観察することができるからである。特に円は、PとNの風景を結ぶ役割をする。実際、地球の緯度と経度のどこかから見た空(<Because the sky is blue (1984))

「Because the sky is blue」 (1984) © Susumu Ohira

「Because the sky is blue」 (1984) © Susumu Ohira

を観察することから出発し宇宙全体を知覚しようとする作家の視線は、宇宙の風景をなす究極的な実体であると考えられる「円」を作品の中心的要素として用いるに至る。こういった観点から、円環いっぱいで埋まっている<景1>(2006)

「景1」(2006) © Susumu Ohira

「景1」(2006) © Susumu Ohira

の世界は、<景P-1>(2008) で始まった顔の風景と同じ脈絡のものである。

「景P-1」(2008) © Susumu Ohira

「景P-1」(2008) © Susumu Ohira

例えば、青空を描いた作品<碧落へ(へきらくへ)>(1985年)

「碧落へ(へきらくへ)」(1985) © Susumu Ohira

「碧落へ(へきらくへ)」(1985) © Susumu Ohira

で、我々は単に空を見つめる作家の目に広がるエメラルド色の青空だけではなく、青空の深淵、すなわち、空の殻の中に隠れているもう一つの空を、いわば宇宙の内面のイメージも眺めるようになる。そういった深淵の中でそれ以上分割することができない宇宙の原子、すなわち、中性子と陽性子を含む微細な素粒子の世界が存在するという事実を作家はよく知っている。したがって、大平の「景」は、作家が描いた人物たちとの思い出、すなわち、過去の記憶を喚起させ人生の煩悩を108個の人物像に象徴化させる小宇宙の世界に対する作業であると同時に、自然と日常の背後に隠れた大宇宙のミクロな風景を再現しようとする作家の熱望を表す風景ともいえる。

大平奨が創造した風景で「円」は、旅行者でタイムマシンであり、広大な宇宙の素粒子である。彼が描いた風景-顔、日常の世界、自然-は、写真として現像されたイメージとは全く異なるイメージとして、世界に対する深い観察と捕捉のできない宇宙の神秘の畏敬の念が隠れている。砂浜の砂粒のような数十億の人口のうちから彼が描いた108人の顔を介して最終的に完成される大平自身の自画像は、解明できない宇宙のもう一つの小さな宇宙としての自分に直面する旅と解釈しても構わないのであろう。そして、大平の「景」は、人生の本質を考察するため、過去と現在の時間を行き来する目に見えない宇宙の旅行者-円により完成される。彼の視線を介して、今日、我々は人間と宇宙の内面風景を新たに覗いている。

 

大平 奨

1949年 山口県下関生まれ。法政大学卒業(1972年)。滞仏(1975~77)

個展:
シロタ画廊(東京): 1988年、1986年、1984年 あしび舎(川越):2001年
西瓜糖(東京):1989年、1991年、1994年、1996年、2002年、2003年、2005年
なびす画廊(東京): 1990年、1992年、1994年、1997年、2000年、2002年、2004年、2006年、2008年、2009年、2012年
ギャラリーれがろ(東京):2007年、2010年、2013年
公益邦人日仏会館(東京):2011年
현대「現代」gallery (大田市、韓国): 2013年
Galerie Canvas Jiyugaoka (東京): 2013年

主なグループ展:
国画会(1974年、75年、80年~86年/85年 新人賞受賞)、フランス美術賞展(パリ/75年)、第17回現代日本美術展(85年)、ジャパンエンバコンクール展(88年、89年)、IBM絵画・イラストコンクール展(88年、89年賞候補)、吉原治良賞美術コンクール展(89年)、風の芸術展(89年)、現代日本絵画展(90年)、TAMON賞展(90年)、弁天海港佐久島アートフェスティヴァル(2000年)、デジタルプリントアート展(02年)、日韓国際現代美術展(03年、05年)、「INDEPENDENCE-5」(05年)、「現代の画家展」(06年) ART/X/TOYAMA in UOZU (2006、10、14)「今日の反核反戦展」(2007、08、09、10、11)日韓現代美術展2007-多面体-(2007 )、ノー・ウォー横浜展(2008)、日韓国際アートフェスティヴァル「Moving Castle」(大田市/韓国/2009、 東京/2010)、上野の森美術館大賞展(上野の森美術館 2011、12)、La synergie à Paris (ギャラリー Satellite、パリ、フランス 2013)、Arte Contempraneo de Japon (Sala de ARTE AGUIMES Casa de la Cultura, グラン・カナリア、スペイン2013)、大田市国際美術交流展(大田市/韓国2014)他

07
12
07
27
  • 2014-07-12 - 2014-07-27
  • 入場無料
  • 03-5206-2500(アンスティチュ・フランセ東京)
  • アンスティチュ・フランセ東京 ギャラリー
    新宿区市谷船河原町15 東京都