『アトランティック』© Les Films du Bal

国立映画アーカイブでの特集上映【フランス映画を作った女性監督たち――放浪と抵抗の軌跡】につづく本特集では、初長編作品『アトランティック』が2019年カンヌ国際映画祭でコンペティション部門グランプリを受賞した気鋭の女性監督、マティ・ディオップにフォーカスします。

よりよい世界を夢見て海を渡るもの、留まりその地の過去と未来を紡ぐもの、流れ着いた先で故郷を想うものーーフランスとセネガル二つの土地にルーツを持つマティ・ディオップは、現実社会を捉える確かな観察眼と豊かなイマジネーションによって、さまざまに「越境」する人びとの姿をスクリーンに映し出します。今回が劇場初公開となる『アトランティック』に加え、貴重な初期短編作品や女優としての出演作など、彼女の魅力に多方面から迫るラインナップをぜひ劇場の空間でご堪能ください。

 

上映作品

マティ・ディオップ監督作品

『アトランティック』

(フランス、セネガル、ベルギー/106分/2019年/カラー/デジタル)

都市開発が進むセネガルの首都ダカール。高層ビルの建設現場で働く青年スレイマンと恋仲にある17歳の少女アイダは、別の裕福な婚約者との結婚を控えていた。給料の未払いが続く職場に耐えかねたスレイマンと仲間の男たちは、よりよい暮らしを夢見てスペインへと航海に出る。女たちが残された空虚な港町へ、ある日彼らは思いもよらない姿で帰還するーー。現代セネガル社会の暗部を映しながら意表を突くストーリーと幻想的なビジュアルイメージで唯一無二の世界観を打ち出した、マティ・ディオップ初長編作品。2019年カンヌ国際映画祭コンペティション部門グランプリ受賞。

 

『ビッグ・イン・ベトナム』 

(フランス/28分/2012年/カラー/デジタル)

マルセイユ周辺の森林でフランス系ベトナム人の監督アンリエットは息子のマイクに手伝ってもらいながらピエール・ショデルロ・ド・ラクロ原作『危険な関係』を撮影していた。しかし主演俳優が行方不明になり撮影は中断。アンリエットは彼を探し出すため息子とクルーに現場を任せ、一人町を彷徨う。その途中ベトナムからフランスにやってきた男と出会い、彼は忘れがたい故郷への思いをアンリエットに語り始めるのだった。イメージフォーラム・フェスティバル2012で上映。2012年ロッテルダム映画祭短編部門グランプリ受賞作。

 

『千の太陽』 

(フランス/45分/2013年/カラー/デジタル)

マティ・ディオップの叔父であるセネガル映画の巨匠、ジブリル・ジオップ・マンベティ監督による『トゥキ・ブキ/ハイエナの旅』(1973)の足跡を辿った短編作品。公開から40年の時が経った『トゥキ・ブキ』の舞台ダカールで、マティ・ディオップはその主演俳優マガイェ・ニアンの現在の姿を追う。今では年老いた牛飼いとなった彼は、かつて自身が演じた青年と同じく祖国セネガルを離れられずにいた。亡き伯父の映画の世界と姪ディオップの眼差す現在とが、虚実の境を越えて絡み合う傑作。2013年マルセイユ・ドキュメンタリー国際映画祭グランプリ受賞。

 

マティ・ディオップを巡る作品たち

『トゥキ・ブキ/ハイエナの旅』

監督:ジブリル・ジオップ・マンベティ

(セネガル/95分/1972年/カラー/デジタル)

マティ・ディオップの叔父、ジブリル・ジオップ・マンベティ監督の長編処女作で、新しいアフリカ映画の誕生を全世界に知らしめ、アフリカの「ヌーヴェルヴァーグ」と評される作品。若い恋人たち、モリとアンタは、喧騒と貧民窟から逃げ出し、パリで富を手に入れることを夢見て、牛の角をつけたバイクに乗り旅立つ。道中、金欲しさにギャンブルや盗み、売春を働き、ダカールでは手に汗を握る追跡劇が繰り広げられる。モリとアンタのカップルは『俺たちに明日はない』や『気狂いピエロ』などのアウトロー・カップルのアフリカ版のようである。冒頭の食肉解体処理所の映像などは、ネオリアリズムを思わせながら、主人公達の白昼夢をもとにファンタジックな世界が広がる。

 

35杯のラムショット

監督:クレール・ドゥニ

(フランス/100分/2009年/カラー/デジタル)

地下鉄の運転手リオネルは、娘のジョゼフィーヌと二人でパリ郊外に暮している。リオネルには近所に住むガブリエルという恋人がおり、一方ジョゼフィーヌにも心惹かれる男、ノエがいた。やがて父リオネルは愛する娘との別れが遠くないことを感じ始める。マティ・ディオップは本作で娘のジョセフィーヌを演じ女優デビュー。クレール・ドゥニ作品の常連俳優アレックス・デスカスと共に主演を務め、リュミエール主演女優賞にノミネートされるなど高い評価を得た。小津安二郎へのオマージュが込められた作品で、父と娘の関係を詩情豊かに描いた秀作。ヴェネチア国際映画祭出品作品。

 

パリ、18 区、夜

監督:クレール・ドゥニ

(フランス/109分/1994年/カラー/35mm)

若い娘ダイガは女優をめざしリトアニアからパリにやってくる。故郷で知り合ったプロデューサーを訪ねるも、体よく追い払われ、パリに住む叔母の紹介で18区の安ホテルで清掃をしながら下宿することに。そのホテルにはカミーユというゲイの青年が愛人ラファエルと一緒に暮らしていた。アフリカ系移民のカミーユは精悍な肉体を売り物にゲイ・クラブでダンサーをしている。やがて老女を狙った連続殺人事件の犠牲者が出る。昼も夜も休まずに人々が蠢いているパリ18区で様々な人生が交差する。日本では1997年に劇場公開され、以降上映機会も稀な本作をさらに貴重な35mmプリントで上映。

 

【監督プロフィール】

©Huma Rosentalski

マティ・ディオップ Mati Diop

1982年パリ生まれ。フランスのル・フレノワ国立現代アートスタジオや、パレ・ド・トーキョーの研究施設「ル・パヴィヨン」で学ぶ。父はセネガルのジャズ・ミュージシャン、ワシス・ディオップであり、叔父はセネガル映画の巨匠ジブリル・ジオップ・マンベティ。映画監督のクレール・ドゥニはディオップにとって師匠のような存在であり、映画制作において大きな影響を受けていると語る。監督に加え脚本執筆も手掛けるほか、女優としても活躍しており、直近ではクレール・ドゥニの最新作『Avec amour et acharnement(原題)』(2022)にも出演している。

 

 

 

【上映スケジュール】

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会期▶︎2020/4/23(土)〜 5/6(金) 連日21:00〜

会場▶︎シアター・イメージフォーラム

4/23(土)アトランティック ☆アフタートークあり
4/24(日)ビッグ・イン・ベトナム+千の太陽
4/25(月)アトランティック
4/26(火)アトランティック
4/27(水)トゥキ・ブキ/ハイエナの旅
4/28(木)アトランティック
4/29(金)パリ、18区、夜
4/30(土)トゥキ・ブキ/ハイエナの旅
5/1(日)アトランティック
5/2(月)アトランティック
5/3(火)35杯のラムショット
5/4(水)ビッグ・イン・ベトナム+千の太陽
5/5(木)アトランティック
5/6(金)アトランティック

☆トークショー開催! 4/23(土)『アトランティック』上映後 

登壇者:月永理絵さん(ライター/編集者)、坂本安美(アンスティチュ・フランセ日本映画プログラム主任)

 

主催:アンスティチュ・フランセ日本/シアター・イメージフォーラム

アンスティチュ・フランセ日本 映画プログラム オフィシャル・パートナー:笹川日仏財団、TV5 MONDE

特別協力:アンスティチュ・フランセ パリ本部、国立映画アーカイブ、Bart.lab、tapetum works

フィルム提供及び協力:アナ・サンダース・フィルム、チネテカ・ディ・ボローニャフィルムファンデーション、エル・ドライバー、MK2、大寺眞輔、プレイタイム

04
23
05
06
  • 2022-04-23 - 2022-05-06
  • 00:00
  • 一般:1500円/学生・シニア・会員1200円 *リピーター割引:窓口にてチケット提示で当日一般料金より300円引き
  • 03-5766-0114
  • シアター・イメージフォーラム
    〒 〒150-0002
    東京都 渋谷区 渋谷2丁目10−2