Présage, vidéo, 2007 – en cours Vidéo HD, c. 6’ Nuit Blanche Paris 2014, Hôtel de Ville

 

イシャム・ベラダ インタビュー

 「この危機は触媒として作用する」

 

ヨコハマトリエンナーレ2020「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」出展作家で、

日仏対談シリーズ「ル・ラボ」vol.33(9月20日配信開始)へも出演するアーティスト、イシャム・ベラダ

The Art Newspaper France 紙 506号に掲載されたインタビューの日本語訳をお届けします。

 

 

イシャム・ベラダ 「この危機は触媒として作用する」

2020年のマルセル・デュシャン賞にノミネートされたイシャム・ベラダが、コロナ禍での経験と作家活動に与えた影響について語ります。この世界規模の出来事をスローダウンする時ととらえ、新たな可能性を展望します。

インタビュー:ステファン・ルノー

 

コロナウイルス蔓延を阻止するための外出制限中、どこでどのように過ごしていましたか?

外出制限の期間はフランス北部の町、ルーベにある自宅で過ごしていました。引っ越して1年弱ですが、残っていた引っ越しの段ボールをすべて片づけることができました。また多くの時間をアトリエで過ごしました。

 

生活やプロジェクトにはどのような影響がありましたか?

残念ながら、いくつかの展覧会は開幕後、ほどなく閉幕してしまいました。パリのポンピドゥー・センターでの「ニューロン展」については、わずか2週間後のことでした。予定されていた展覧会は延期や中止となり、短期長期を問わずすべてのプロジェクトが再検討されました。この期間、ほかの多くの人々がそうだったように、かつてなく曖昧で、いかなるシナリオにも開かれている未来に自分を映すことはとても難しいことでした。結局、計画してプロジェクトを進めるというより、ただその日の作業をし、考えるという日々を過ごすことになりました。時間に余裕が生まれ、多くの新しい研究を始めました。この外出禁止令によって課された制約はかなり実り多いものになりました。先が見通せず、時間との関係が変化したことで、計画を立てることなく、どこに導かれるかも分からないまま見る、ということを体験できました。ついには自分でも予期していなかった興味深い道が開けました。

 

現在の状況で困難に感じていることはありますか?

収入がないことから、手元にあるもの、アトリエにあるものを使って制作することになりました。私は物質の変化について取り組んでいますが、普段使っている材料の多くは消耗品です。アトリエを閉ざされた生態系として考え、変化した材料が消費されることなく、様々な状態を経てゆくという実験へと研究の方向を変えました。

 

この危機をどのように考えていますか?

私の考えでは、この危機は触媒として作用し、ずっと前から始まっていた変化を加速させるでしょう。1980年、コンコルドはパリとニューヨークを3時間以内で結びましたが、2003年以降、大量に燃料を消費することから、同機は赤字となりました。過去50年の並はずれた技術革新の加速、限界や結果を考慮しないエネルギー使用はすでに終わっています。しかし、これまでに築き上げた知識や技術のおかげで、「次の世界」が生まれてくるとも言えます。私はこの危機を急激な変化ではなく、単なる変調として見ています。

 

この出来事から着想を得ることはできるでしょうか?

私は普段から、独自の規則や環境下で機能する、私たちの世界とは切り離された別の小さな世界を動かす装置を制作しています。しかし私はこの世界で生きていますし、ある問題や出来事に反応して制作することは決してなくとも、私の作品は当然この世界の影響を受けます。この危機により私と時間、そして私と空間との関係は変化しました。その点では、作品を豊かにしてくれます。

 

この経験は作家活動に変化をもたらしますか、また転機となっていますか?

より多くの時間を研究に費やせることはとてもよいことだと思いました。今後の創作活動は、移動を少なくし、アトリエにいる時間を増やして、よりゆっくりとしたペースで行うつもりです。現在、完成に1~2か月かかる実験装置に取り組んでいますが、以前は分単位や時間単位の時間制を有する装置を好んで制作していました。今は横浜トリエンナーレの作品設営をリモートで行っています。予定通り現地に赴くことができないからです。作品が複雑なため、正確かつ活発なコミュニケーションが求められるので、作業が少なくなることはありませんが、それは可能ですし、おそらく今後はより頻繁に行われるでしょう。

 

あなたの考えでは、このパンデミックは何を伝えようとしているのでしょう?

このパンデミックは何かを「私たちに伝えようとしている」ものではないと思います。

各々が以前から抱いている関心に応じて、得たいものを得ていることが興味深いです。このパンデミックにより、時間や空間、距離に対する認識がより良いものになることを願っています。必然的に、すべてがスローダウンするのではないでしょうか。スピードダウンすることはマイナスではありません。今回課された地方回帰は地域のつながりを強くし、地方を活性化させ、このゆっくりと流れる時間を受け入れることで、さらに新しい可能性を生み出すでしょう。

 

このような状況の中で、アーティストが果たすことのできる役割とは? 

それは各アーティストが自由に決めることです。私としては、芸術活動を、啓示者の活動と同じようなものと理解しています。つまり私たちが生きている世界のある特徴を指摘し、時に現実に対する新しい解釈を先取りしたり、促したりするのです。またアーティストの作業過程、そしてアーティストの制作の方法や進め方が、現代における変化をどのように反映しているか観察することも、興味深いと思います。

巨大なアトリエに大勢のアシスタントを擁する50代のアーティストたちは、無限の成長を信じていた時代の象徴です。若手アーティストの、よりDIY(Do It Yourself)的で自律的な活動の方が、私たちの時代に適していて、今起きている変化をそのまま示しているのです。

 

イシャム・ベラダは、横浜トリエンナーレ(7月17日~10月11日)、リガ・ビエンナーレ(8月20日~9月13日)、ポンピドゥー・センターでの2020年マルセル・デュシャン賞ノミネート作家の展覧会(10月7日開幕予定)に参加します。

http://www.hichamberrada.com/

 

※本インタビューは、The Art Newspaper France 紙 506号(2020年6月10日発行)の掲載記事を和訳したものです。インタビュー原文(フランス語)は、The Art Newspaper Franceの公式サイトよりご登録のうえ、お読みいただけます。

 

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