関西の知識人・文化人の方にご登場いただき、フランスの好きな作品をご紹介いただくシリーズ。
第三弾は、友禅作家の森口邦彦先生です。

今秋、京都国立近代美術館において「人間国宝 森口邦彦 友禅/デザイン 交差する自由へのまなざし」展が開催される森口先生は、学生時代、関西日仏学館(現アンスティチュ・フランセ関西)でフランス語を学ばれていました。昨年、フランスのマクロン大統領がご自宅を訪問した際は、通訳を介すことなく、直接フランス語でお話しになられた、フランス語の達人でもいらっしゃいます。今回は、受講生へのメッセージも含めた特別バージョンでお送り致します!

 

◎今回ご登場いただくのは: 森口 邦彦 様(友禅作家、人間国宝)

1. フランスとの関わりを教えて下さい
京都市立美術大学(現・京都市立芸術大学)日本画科を卒業後、フランス政府給費留学生としてパリに留学。1966年7月パリ国立高等装飾美術学校グラフィックデザイン科卒業。

セーヴル・マニュファクチャーとのコラボレーション(2016-2018)やパリ日本文化会館での展覧会(2016)など、フランスとの交流は現在も数多く続いています。

 

2.フランスにまつわるお好きな作品を教えて下さい
ロマネスク様式の教会

 

3.作品を選ばれた理由は何ですか?

パリ国立高等装飾美術学校の2年生だった1964年春、美術史の授業の提出課題として、クレルモン=フェランのノートルダム・デュ・ポール寺院を描いたことがあります。種痘を植える際に用いるペン型のナイフで、黒く塗られた石膏ボードを削り、制作しました。

中世フランスを代表するロマネスク教会は、フランス文化の根幹を形づくるもの。人は神を敬い、「芸術」や「個性」を意識する以前の時代の作品です。人間の手技でありながら、それを全く感じさせない、中世の教会は本当に美しいと素直に感動し、これを制作しました。

その時代のものを今、リアルに見ることができるのはすごいことです。

 

◎受講生の皆様へメッセージ

学生だった1959年より4年間、関西日仏学館でオーシュコルヌ先生達からフランス語を学びました。

情緒的な表現を得意とする日本語と異なり、しっかりと論理を構築できるフランス語ですが、発音の練習で使われたシャンソンの歌詞などに溢れる豊かな情緒を感じたものです。言葉に表れる文化、国民性、そして日本語との違いを感じ、楽しみながら勉強してほしいと思います。

たくさんの暗記が必要な辛い時期がありますが、それを過ぎると非常に自由な地平に出るのです。そこにフッと出てきた時に、きっと何かがあると思います。

下手でもお喋りをして相手と意見を交換するのは本当に楽しく、違う言葉をマスターすることは、自分の文化性を深める意味でも有効だと思います。個人的にも、フランス語を通して出会った人々とのとても豊かな体験は掛け替えのないものです。

日仏学館で様々な年代、経験を持つ人々とクラスを共にして学んだことも、とても楽しい思い出です。

 

◎パリを訪れる方にお薦めのコース

夕陽を浴びたサント・シャペル寺院のステンドグラス、そしてクリュニー中世美術館の一角獣のタピストリー。この二か所は絶対に外せません。あとは、美術館の前のカフェでコーヒーを飲んで余韻にひたってください。

 

◎新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、今考えていること

東と西の二つの文化を体感し、創作の原点を見出していることで、僕は伝統の世界に埋没することなく、自分らしく生きられていると思います。日仏の文化交流や友情の交換に得がたい幸せを感じてきました。しかし、人間に対する大自然からの警鐘とも言える今回の世界的な危機に際し、そうしたことが拒否されたのではないか、と思い悩みました。

けれども、そうではないのです。人や文化の交流を断絶するのではなく、今こそ、「運命共同体」を共に生きる必要があるはずです。自分や自国さえ良ければいいという考え方ではなく、大きな意識改革が必要なこの時。文化交流を通して、新しい世界を見出すことにつなげなければならないのです。

 

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(注)上記のテキストは、森口氏のお話を元に、アンスティチュ・フランセ関西でまとめたものです。

追記1:京都国立近代美術館における「人間国宝 森口邦彦 友禅/デザイン 交差する自由へのまなざし」展は、10月13日~12月6日 に開催されます。

https://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionArchive/2020/439.html

 

追記2:2019年、G20のために来日したフランスのマクロン大統領が森口先生宅を訪問した際の記事はこちらをご覧ください(エリゼ宮WEBサイト、仏語)。

https://www.elysee.fr/emmanuel-macron/2019/06/27/a-kyoto-rencontre-avec-un-tresor-national-vivant-lartiste-japonais-kunihiko-moriguchi

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三越のショッピングバッグのモダンなデザインでも知られる森口先生。フランスと日本、二つの文化を知ったことで「自分らしく生きられている」とのお話は、フランス語や外国語を学ぶことが自らの人生を豊かにすることを、私たちに伝えてくれています。新型コロナウイルスの感染が世界中で拡大する今、文化交流の果たす役割についても大いに考えさせられたインタビューでした。

森口先生、貴重なお話を有難うございました!

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