メディアテーク 第1回 『読書クラブ』

“Club de lecture” 

書評コンクール 結果発表!!

 

 

第一回『読書クラブ』書評コンクールへの沢山のご応募をいただき、誠にありがとうございました。

いずれも大変優れた作品でしたので、驚きとともに大きな喜びでした。

審査は簡単ではありませんでしたが、今回のテーマ「女性が輝ける社会」に最もよりそった作品として、予定通り2作が最優秀作品として選出されましたので、以下に発表いたします。

・miwa 様 『三つ編み』レティシア・コロンバニ著

・小川絵奈様 『クレール』オード・ピコー著

お二人の受賞者の方、おめでとうございます。心から祝辞とお礼を申し上げます。(アンスティチュ・フランセ日本オリジナルマイボトルを贈呈いたします)

読者の皆様も、是非ご一読ください。

 

第二回『読書クラブ』は、いよいよメディアテーク内で行われます。

10月17日(土)16時-18時 場所 アンスティチュ・フランセ東京メディアテーク

参加無料、要予約 定員8名 お問い合わせ アンスティチュ・フランセ東京メディアテーク

tokyo.mediatheque@insititutfrancais.jp   ℡:03-5206-2560

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 『書評コンクール』受賞作品

 

 

『三つ編み』レティシア・コロンバニ著  

miwa 様

地球上のおよそ半分の人口である女性の社会における地位は、歴史の歩みと共に、少しずつではあるが向上してきている。特に先進国においては、法制度上、男女はほぼ同権であり、政治や経済、文化やスポーツ等、社会の各分野において成功する女性が増えている。しかし、そうした眩い光を放つごく一部の女性がいる一方で、ほとんどの女性たちは日常において、大小さまざまな男女差の中で、自分の生きる道を探している。特に途上国における女性の地位は変わらず厳しい。

本書は、今という時代に全く違う人生を生きる三人の女性の物語である。作者は、三人の人生を、三つ編みを編むように描いている。

一人はインド、ウッタル・プラディーシュ州のバドラプールという村に不可触民として生まれたが、娘は学校に行かせ、自分と違った生き方をさせたいと願うスミタ。

一人はイタリア、シチリアのパレルモで伝統業を営む家に生まれ、父の入院と、移民男性との恋に心が揺れるジュリア。

一人はカナダ、モントリオールで辣腕弁護士として成功し、家庭よりも仕事を優先した後に体を壊してしまうサラ。

三人は同じ時代にこの地球上に生きているが、三人とも世界に目を向けているわけではない。むしろ自分の身近な場所で行き場のない悩みに苦しみもがいている。

「女性が輝ける社会」というと、日本に生きる私たちは、まずは弁護士のサラのような仕事で成功した生き方や、好きなことが自由に出来る環境にあるジュリアを思い描く。そして、女性が輝く、成功するためには、やはり相当な努力と犠牲、そして恵まれた環境が必要だと考える。

しかし、三人の中で最も過酷な人生を生きるスミタも諦めていない。彼女が娘に望むのは「教育」であり、不可触民から這い上がって女性政治家となったクマリ・マヤワティ、つまりは弁護士のサラのような「強い女性」になることである。

一方で、モントリオールで一番権威のある弁護士事務所で女性初のアソシエイト弁護士に上り詰めたサラは、医師から癌を告知され、このことがやがて職場に知られたことで、まるで不可触民であるかように周りから疎まれ、失意のどん底に落ちる。

三人の中で最も自然体で人生を歩んでいたシチリアのジュリアも、父の死を前に倒産寸前の家業を救うため、好きでもない男性との結婚を家族から強いられる。

三人はそれぞれの苦境の中で、悩み、やがて自立して歩む道を探そうとする。スミタは最下層の民に甘んじることから自立するため、命を賭けて娘と共に村を出る。ジュリアは伝統的な考え方から自立し、愛する移民男性と共に新たな方法で家業を継いで仕事を始める。サラは家庭や健康を犠牲にして仕事に成功しなければならないという考え方から自立し、大手弁護士事務所を辞めて、癌を治療し、家庭と仕事を自分らしく両立することに向かって歩み出す。

したがって、ここに描かれた三人の女性が照らすのは、誰もが羨む「成功の光」ではない。逆境の中、何とか前向きに生きようとする心の中の小さな「希望の光」である。著者であるフランス人作家のレティシア・コロンバニは、地球上の全く違う場所で違う境遇にいる三人の女性の心の中に「希望の光」を灯す。そしてその光が本書を読んだ世界中の女性の心に広がっているのだ。

かつて、ユン・チアンの「ワイルド・スワン」やイサベル・アジェンデの「精霊たちの家」など20世紀の小説では、祖母・母・娘の三世代の女性の人生を通じて、女性の生き方の変化や普遍性が描かれた。しかし本作品は、21世紀を生きる同時代の三人の女性の多様性と心の普遍性を描いている。私たちの時代の女性たちだ。

今年、2020年、コロナウィルスの感染拡大により、世界がつながっていることを改めて感じさせられた。ウィルスだけでなく、インターネットやSNS、物流や飛行機などにより、世界はますますつながっていく。しかし、重要なのはこうした情報や物理的なつながりだけではない。人のポジティブな気持ちが、「希望の光」が、無意識に広がっていくことだと思う。お互いの存在を知らない三人の女性が「髪」で繋がり、前を向いて歩こうとする物語に、世界の人の心に光が灯される。

 

 

『クレール』 オード・ピコー著

小川絵奈 様

クレール、32歳独身、パリ在住。NICU(新生児集中治療室)に務めるナース。この物語ではクレールが理想のパートナーとの幸せな生活を夢に抱きながら、恋に仕事に日々奮闘する3年間を描いている。パリジェンヌというと、エレガンスで男性を冷たくあしらい、独身生活を謳歌する、などのイメージが自然と湧いてくる。しかしながら読み進めていくと、クレールも年頃の女性が普通に抱く悩みを抱えていることがわかる。なかでも、「わたしのこと好きになってくれる人なんていないんだわ」、「わたしはもう売り場には陳列してもらえないのよ」といったクレールのフランス人らしからぬ弱音を吐く姿には思わず面喰らってしまった。そして、今までフランス人女性像というものを少し美化しすぎていたのかな、とふと疑問が沸いた。嘘偽りのない気持ちで友達や恋人に様々な意見をぶつけていくクレールは、いわば世の現代女性の代弁者とも言える。
クレールには街中や恋人といる時、ふと理想の家族像を妄想してしまう癖がある。だが、現実はそううまくはいかない。恋人とは3ヶ月以上続いたためしがないし、やっと同棲に漕ぎ着けたファイナンシャル・エンジニアのフランクにも何かとモヤモヤさせられる日々を送っていた。職場では報告会とばかりに、同僚にああでもない、こうでもないと恋人の悩みを打ち明ける。恋愛の悩みは尽きないが、一方で仕事は実にテキパキとこなし、生き生きとしている。仕事のシーンもたくさん出てくるが、特に印象的だったのが保育器の中にいる小さな胎児に優しく声をかけて励ます姿である。とても心が温まった。
物語の最後ではクレールが35歳になっている。フランクとの交際も数年が経ち、この人とこのまま家族を築いていけるのか、両親の失敗も含め冷静に見つめている。クレールが友人たちと「両親と同じ轍を踏みたくない」と話すシーンがあるが、これは離婚率が多いフランスならではの話題だと思った。
また、印象的だったのが、クレールや友人たちは幸せは求めているが、「結婚」というワードは口にしていないことだ。形式だけで固めた幸せは本物ではない、自分たちらしい幸せを見つけたい、とメッセージを投げ掛けてる気もした。これこそが、私が描いていた現代に生きるフランス人女性のイメージだ。クレールは最後、ある大きな決断をする。自宅に招いた友人たちの前で「もう待つのはやめます”今”幸せでありたいと思います。」ときっぱり宣言する。その様子はとても清々しく、こちらまでなんだか元気をもらったような気分になった。

 

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  • 2020-09-30 - 2020-10-31
  • 00:00 - 23:59
  • 03-5206-2560
  • tokyo.mediqtheque@institutfrancais.jp
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