Raoul Ruiz

 

チリ出身で、フランスを拠点に活動してきたラウル・ルイスは夢想的な世界、形式的斬新さ、芸術についての考察を織り交ぜながら、親密なストーリーから奇想天外なドラマ、そして数多くの作家たちの作品の脚色まで、様々な作品に挑んできました。テレビの注文作品から、小さな作品まで、あらゆるジャンルを手がけ、フィクションの実験室を維持し続けてきたラウル・ルイスは現代映画の類いまれな存在と言えるでしょう。傑作『ミステリーズ リスボンの謎』の日本公開(今秋、シネスイッチ銀座他全国ロードショー)を記念し、そして今年他界したこの偉大な映画監督を追悼すべく、代表作を10本上映します。

 

ラウル・ルイス 略歴
1941年7月25日、チリ・プエルトモント生まれ。
68年に『Très tristes tigres(とても悲しい虎)』で監督デビューしたラウル・ルイスは、舞台の脚本をはじめ、既に多くの作品を手がけていた。ロカルノ国際映画祭で金豹子賞を受賞し、一躍チリ映画の第一線におどり出るが、73年、社会主義的活動家だったルイスは、ピノチェトによるクーデター、軍事独裁政権交代後、パリへ亡命し、パリにて映画活動を続ける。1974年、自らの政治的亡命の経験から着想を得て『Dialogue d’exilés(亡命者の対話)』を発表する。78年、ピエール・クロウスキー原作の『L’Hypothèse du tableau volé(盗まれた絵画の仮説)』がヨーロッパでヒットし、夢と現の狭間を移ろう様を描ける映像詩人としての地位を不動のものとする。その後も続々と作品 を発表し続け、20年間で50本という驚異の多作ぶりを見せる。マルチャロ・マストロヤンニ主演の『三つの人生とたった一つの死』は1996年カンヌ国際映画祭コンペティション部門で正式上映され、カトリーヌ・ドヌーヴ主演の『犯罪の系譜』は1997年ベルリン国際映画祭にて銀熊賞を受賞。1999年、20世紀文学の頂点といわれるマルセル・プルーストの同名小説を映画化した『見出された時―「失われた時を求めて」より―』もカンヌ国際映画祭コンペティションで上映され、日本ではラウル・ルイス初公開作品となる。100本以上の作品を世に送り続けたラウル・ルイスの生前に完成、公開された最期の作品となる『ミステリーズ 運命のリスボン』はロマン主義最大の作家と言われるカミル・カステロ・ブランコの人気小説を原作に”愛“と”運命“が描かれる壮大なドラマ。フランスでもっとも権威あるルイ・デュリュック賞の作品賞を受賞するほか、世界中で賞賛の嵐を受ける。イギリスのウェリントン公爵とナポレオンの戦いを描く次回作『Linhas de Wellington』の準備を進めていた矢先の2011年8月19日、惜しくも70歳でこの世を去る。同作は、その後、マルコヴィッチ、ドヌーヴ、アマルリック、プポー、ピコリ、ユペールら、ラウル・ルイス作品馴染みの俳優たちが集結し、ルイスの妻で、編集担当、そして自ら監督経験のあるヴァレリア・サルミネントが完成させ、近日世界中で公開予定。遺作となり、自らの遺言的作品でもある『向こうにある夜』は2012年カンヌ国際映画祭監督週間に出品され、その後フランスで公開され、多くの批評家から絶賛される。

 

「ラウル・ルイス…、世界各地で100本を超える作品を撮っている彼は、20世紀後半の最も摩訶不思議な映画作家と言われている。昨年惜しくも亡くなった彼の映画人生は、おおまかに3つの時代に分けられると言えるかも知れない。まず1)1973年9月11日のチリ軍事政権の成立で亡命するまでの母国での時代。次に2)メリエス、ハリウッドのB級映画作家、ブニュエル、オリヴェイラ、鈴木清順とも比較され、フランスやポルトガル他ヨーロッパから果てはアメリカン・インディーズまでの国々で撮りまくった最も旺盛で多作な低予算映画作家時代。そして3)それまでもパートナーの一人だったパウロ・ブランコ製作によるプルーストの翻案『見出された時』で国際的な名声を確立後、『クリムト』や『ミステリー・オブ・リスボン』まで日本でも公開された大作を手がけつつ民主化後のチリでの製作を再開して若い作家や観客との出会いを果たし、祖国を代表する巨匠として認知された最後の時代である。
ただしインタビューでルイス自身が「一つのショットには6つの機能がある」と語ってくれたように、彼の映画にある驚くほどの多面性は、そうやすやすと要約することを許してくれない。一見ネオレアリスモの影響下にある初期チリ時代でさえ映像というメディアが媒介した現実という二重性が存在したし、たった数日で撮ってしまった超現実的で奇想天外なアイディアの作品が満載のヨーロッパ初期にも、その裏面では一夜にして死の危険から国外脱出しなければならなかった亡命経験が息づいているかのようだ。だからアイデンティティの分裂、幽霊、書き割りと鏡と影、オフスクリーンの声を使った魔術的な語り口は、彼にとっていつも現実的だったように思える。そして彼の全貌を知るためには、本当は晩年の比較的潤沢な予算の作品は祖国への帰還作品とともに見られるべきだろうと考えられるので、彼の大規模な回顧上映をいつか日本で実現するためにも、まずは一人でも多くの観客がこの特集に駆けつけてほしい!」
赤坂 太輔

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